就業規則には、特に法律上定義があるわけではありません。個々の労働者との労働契約とは別に、労働者間で不公平が出ないよう、労働条件や職場規律を統一的なルールとして定めた社内の「ルールブック」のようなものです。
労働者が気持ちよく働くために、何を守ったらいいのか、守らなかったらどうなるか等きちんと定めておくことで、社内のトラブルを防止することもできます。
就業規則は、常時使用する労働者が10人以上の会社に対して、作成および労働基準監督署への届出が義務付けられています。併せて、社内の労働者に「周知」して、初めて就業規則そのものの効力が発生するといわれています。
就業規則の内容は、労働基準法などの労働関係法令に基づいて作成しなければならず、法令の基準を下回るルールを定めてはなりません。同様に、労使合意を前提とする労働協約に定める基準を下回るルールも就業規則で定めてはならないとされています。万が一、法令および労働協約の基準に達しない条件を定めた場合には、その抵触した部分については、法令や労働協約の内容が適用されます。
就業規則と労働契約との関係については、就業規則で定める基準に達しない労働契約を結んではならないとされていて、その抵触した部分については、前述とは異なり、就業規則で定めた内容が適用されます。
就業規則がその機能を果たすためには、下記の条件を満たしていることが必要です。
①就業規則の作成
②労働者代表の意見書を添えて、労働基準監督署へ届出
③就業規則の労働者への周知
④「法令遵守」及び「合理的内容」の就業規則であること
①、②については就業規則作成の手順に過ぎず、一般的に就業規則の効力発生要件は過去の裁判例等からみると、③の労働者への周知が最大のポイントだといわれています。ただし、周知をしていたとしても、その内容が④「法的遵守」「合理的内容」でない限り無効となってしまうため、④も注意しなければなりません。
就業規則そのものは、過去の裁判例等により、上記④の合理的な労働条件を定めているものに限り「法的規範性」がある、つまり法としての拘束力がある規定ということになります。
逆に、不合理な労働条件を定めている就業規則は、当然ながら法的拘束力はありません。この法的効力わ持つ就業規則だからこそ労務管理の軸となるのです。そのため、十分に精査して作成した上で、労働者へ周知していかなければなりません。
就業規則を定めることにより、なにがメリットとなるかはそれぞれ立場によって異なります。
(労働者サイドからみたメリット)
就業規則に定められている条件、福利厚生等について、ルールに従って手続をおこなうことにより、様々な権利を得ることができる。
例:・有給休暇、特別休暇、育児、介護休暇、誕生日休暇等
・慶事見舞金、永年勤続祝金等
・休職、退職等
(会社サイドからみたメリット)
会社側が作る就業規則には、経営理念や方針を盛り込むことができる。また、統一的・画一的な労働条件を決定することにより、労務管理がスムーズになる。
就業規則を可能な限り具体的にすることで、労務管理の担当者にとってマニュアルとしての機能をもたせることができます。
例:・雇用形態ごとの就業規則も作成可能
・労働契約の一部として代用することができる
・会社独自の細かい服務規律や懲戒処分、退職事由の設定ができる
なお、ここで注意が必要なのは、就業規則はあくまで、「法令遵守」「合理的内容」であることが条件となることです。
雇用保険料を財源として取り扱う助成金には、労働者の労働条件を向上させること等により、それにかかった費用の一部を助成する制度があります。この申請手続の多くは、就業規則の規定が不可欠となっています。規定を変更した場合は就業規則の届出が必ず必要です。
この助成金制度は、時代背景に伴い、労働条件、つまり就業規則を変えていくことを狙いとしているからです。しかし、助成金をもらうことを目的とすると、就業規則を変更しただけで満足して終わってしまいがちです。就業規則を変更したら、これに則した労務管理を心がけていきましょう。
労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する事業場に対して、就業規則を作成することを義務付けています。この義務に違反すると、30万円以下の罰金が課せられます。
ここでいう常時10人以上の「労働者」とは、雇用形態に関係なく、アルバイトやパートタイマ―等時間の短い労働者も含めます。派遣労働者については、派遣元の会社で作成する義務(常時10人以上の労働者を使用する場合)があるため、人数には含まれません。
なお、就業規則の作成は、会社単位ではなく、事業場単位とされています。
つまり、「常時10人以上の労働者」とは、各事業場の人数で判断するため、会社全体で10人以上いたとしても、事業場によっては作成義務がない場合もあります。
常時労働者が10人に満たない事業場に対しても、行政からの通達で「作成の義務はないが、労働基準法の趣旨に鑑み作成することが望ましい」とされています。
作成義務がない事業場であっても就業規則を作成し、きちんとその内容を労働者に周知することで、会社のルールとしての役目を果たしてくれます。
就業規則を作成することで労働者の労務管理を円滑に進めることができ、会社にもよい効果をもたらしてくれます。