内容証明の中で、雇用契約書、タイムカード、就業規則等の残業代計算に必要な資料の開示が求められた場合、会社はこれを拒否してもよいのでしょうか。
原則からすれば、未払い残業代請求をする労働者側が、請求金額とその根拠を明らかにすべきであり、その立証も労働者がすべきです。
しかし、実際にはタイムカードや就業規則といった基礎資料は会社の資料であり、また労働者の労働時間を把握するのは会社の責務であるため、労働審判や民事訴訟になった場合に、当事者双方からこれらの基礎資料の証拠提出がない場合には、会社側が裁判所から開示するように求められます。
したがって、遅かれ早かれ、これらの基礎資料の開示はすべきということになるため、原則として、労働者側から要求があった場合には、開示に応ずべきだと考えます。
実際、これらの基礎資料の開示を会社が拒んだからといって、労働者側がそこで請求を諦めるということは、まずありません。
基礎資料がない場合は、例えば手帳、メモ、メールの送信時間、ガソリンの給油時間、ICカードの利用履歴等から労働時間を推計して、未払い残業代を計算してきます。
むしろ、会社が労働時間に関する資料をまったく持ち合わせていないような場合には、労働者側の主張と証拠に基づいて、裁判所が労働時間を認定してしまう可能性すらあります。
したがって、これらの基礎資料がなくても、労働者は労働審判や民事訴訟を提起することができますので、訴訟などの中でこれらの基礎資料の提出を裁判所から求められれば、会社としても出さざるを得ませんし、結果的に拒否することに意味はないことがわかります。
基礎資料を開示する場合に、労働者から要求された資料をすべて開示する必要はありません。
あくまでも当該労働者の未払い残業代請求に必要な範囲で開示すればよいのであって、例えば、入社から退職までの過去5年分のすべてのタイムカード(時効消滅している期間についてまでのタイムカード)、請求をしていない他の労働者のタイムカードや重複する資料(タイムカードを転記したに過ぎない業務日報)などの当該労働者の請求と無関係な資料については、開示する必要はありません。
それでもまだ資料が必要だという要求があれば、その時点で改めて必要性を判断して開示するかどうかを決定すべきです。
上記でも述べましたが、会社が基礎資料を開示しなくても、労働者は他の資料をもとに未払い残業代を計算してきますので、請求を断念するということはありません。
また、最近では会社が内容証明を無視して、残業代計算に必要な基礎資料を提出しない場合に、労働者側の代理人弁護士が、証拠保全手続きをとり、タイムカードや賃金台帳などを直接開示するよう求めることがあります。
労働者側の代理人弁護士から裁判所に対して証拠保全の申し立てがなされると、裁判所がその必要性を判断し、保全すべきとの決定がなされると、裁判官や代理人弁護士らが直接会社にやってきて、タイムカードなどの基礎資料を保全する手続きにとりかかります。
もしも、未払い残業代請求について、企業の他の労働者は誰も知らない状態であったとしても、このような証拠保全の騒ぎが起これば、他の労働者にも思わぬ形で知られてしまうことになります。
以上のことからも、基礎資料を開示するか否かで労働者側と争うべきではないと考えます。