労務トラブルになった時の解決のテクニックについて!!

内容証明対応

今日は、労務トラブルの一つである内容証明による未払残業代請求について書きたいと思います。

内容証明とは、いかなる内容の文章を誰から誰宛に差し出したのかを日本郵便株式会社が証明するものです。

労働者(元労働者)からの未払残業代の請求は、この内容証明を通して行われることがほとんどです。

一見、無味乾燥な文字の羅列に見える要求文章であっても、記載内容から請求の真意、求めたい解決内容、会社としてこれから何を検討しなければならないのかのヒントが隠されています。

また、請求者が退職従業員なのか在籍従業員なのか、代理人をつけているかいないか等によっても、会社の対応方法は異なってきます。

そこで、それぞれの状況に応じた初動対応を踏まえたうえで、内容証明が届いたら会社としてどのような手順で対応を考えていけばいいのかを解説していきます。

 

内容証明が届いても慌てない

これまで労務トラブルとは無縁だった会社でも起こりうるのが未払残業代請求です。

ある日突然、残業代の支払いを求める内容証明が会社に届きます。

例えば、従業員(元従業員を含む)から会社に対して「過去2年分の残業代が支払われていないので○○万円を請求する。1週間以内に全額を支払え。支払わなければ法的手段をとる」「タイムカードや日報などの労働時間のわかる資料を1週間以内に開示するよう求める」といった内容の文書が届きます。

無味乾燥な文字の羅列に見える内容証明ですが、実は紛争解決に向けたヒントが隠されています。

そこで、まずは未払残業代請求に関する内容証明の文面から、要求内容・代理人(弁護士など)の有無や所属事務所等、チェックすべきポイントを説明します。チェックポイントを押さえることは、初手での間違った対応を防ぐことができ、会社の円滑な方針決定に資するといえます。

 

内容証明を受け取った場合にしてはいけないこと

(1)内容を吟味する前に交渉を始めてはいけない

これまで未払残業代請求をされたことがない場合や、内容証明そのものを見たことがない場合、「○○万円を、1週間以内に支払え。さもなければ法的手段をとる。」と内容証明に書かれていれば、通常慌ててしまうものですが、内容証明の内容を吟味せず、かつ会社の方針も決めないまま、請求者に連絡したり、交渉したりすることは避けるべきです。

なぜ、吟味する必要があるかというと、例えば、請求内容が、過去5年分の未払残業代の支払いを求めるという内容であった場合、民法上の原則からは、直近の2年分以外の3年分の請求権はすでに時効消滅しており、支払わなくてもよい部分です。

しかしながら、会社が「過去5年分の残業代を支払いたいが今すぐには払えない」とか「できれば分割払いにしてほしい」と交渉したり、とりあえず半額だけ支払ってしまったりすると、過去5年分全額の未払残業代の存在を認め、かつそれを支払う意思を表示したものと判断されて、本来できるはずの3年分の消滅時効の援用(主張)をすることができなくなってしまい、過去5年分全額を支払わなければなくなる可能性があるからです。

すなわち、会社による上記のような対応が、時効完成後の債務承認であると判断され、信義則上、その債務について時効を援用することは許されないと判断される可能性があるということです。

 

(2)何ら対応をせずに放置してはいけない

しかしながら、内容証明を無視することはも避けてください。

内容証明を送付するという行為は、時効中断の予備的措置である「催告」としての意味合いが強いため、「無視していれば、そのうち諦めてくれるだろう」という甘い考えは通用しません。

例えば、会社が、タイムカードや賃金台帳、就業規則といった訴訟提起にあたり必要とされる資料を開示しなかったために、訴訟が遅れたというような場合に、会社側の不誠実な対応を理由に、会社の消滅時効援用は権利濫用に当たり許されないと判断した裁判例もあります。

また、未払残業代請求においてしばしば利用される労働審判手続においては、申立書において、労働審判に至る交渉の経緯を記載することになっています。

そのため、このように会社が内容証明を無視して、資料の開示要求にも応えなかったということは、1つの事情として勘案される可能性もあり、会社にとっては決してプラスにはなりません。

そこで、内容証明が届いた場合は、その内容をしっかり吟味し、対応することが必要になります。

 

(3)代理人がついているのに直接従業員と交渉してはいけない

従業員に代理人がついている場合、会社側から直接従業員本人に交渉を求めたり、連絡したりしてはいけません。

代理人がついている場合、内容証明の語尾に「この件に関する一切のことは、代理人に連絡してください。」と記載されていることが多いものです。

会社側としては、「直接従業員と話をすればわかってもらえるだろう」と考えてしまいますが、すでに代理人がついているような場合は、直接連絡をとってもうまくいかないことが多いため、諦めたほうがよいでしょう。

従業員は、代理人をつけた時点で覚悟が決まっていることが多いので、直接話したからといって請求を取り下げたり諦めたりすることはまずありません。

むしろ、代理人が受任しているにもかかわらず、直接従業員本人と交渉したり、協議したりするようなことは、強迫等によるものと主張されてしまう可能性がありますし、そのような交渉の中での会話内容等が、従業員によって録音されている可能性もあります。

結局、未払残業代請求をしてきた従業員については、直接交渉しようと躍起になるのではなく、淡々と対応していくことが望ましいでしょう。

当然のことながら、在籍している従業員からの請求の場合には、日々の業務に関しては通常通り指示して構いません。

未払残業代請求をした従業員に対しての見せしめや、他の従業員に未払残業代を請求させないようけん制のために、朝礼や会議などの他の従業員がいる前で、名指しで未払残業代請求をしていることを、公表する社長などもいますが、これはまったく意味がないと考えます。

むしろ、他の従業員からの未払残業代請求を助長することになりかねません。

未払残業代請求があった場合には、当該従業員に対してけしからんと考えるのではなくて、未払残業代の検証を行ったうえで、「いつ、どのように、いくら払うのか、再発防止のためにどうすべきか」を冷静に判断すべきです。


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